粥彦

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カテゴリ:作品( 22 )


2017年 11月 18日

言の森

現在、大阪・阪急水無瀬駅前の長谷川書店さんで、「言の森をあるく」というブックフェアが開催中です。

ブックフェアのタイトルになった「言の森」を公開します。
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言の森


言の葉が
くちびるや
ゆびさきから
一枚いちまい
現れる

その
小さな
言の葉は
もともと
遠く
こころから
やってきたもの
だから
きっと
人のこころには
言の葉の茂る
言の木があり
言の森があるのだろう

その森で
深く根の張った
しなやかな
木を育てていこう
その森で
緑まぶしい
かろやかな
葉を育てていこう

もしかすると
僕にとって
森を潤す雨は
しずかに
本を読むことかもしれない
もしかすると
僕にとって
森を照らす太陽は
あなたと
生きていることかもしれない








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by kayu_hiko | 2017-11-18 09:47 | 作品 | Comments(0)
2017年 11月 16日

純粋な本屋

大阪・阪急水無瀬駅前の長谷川書店さんの詩を書きました。

本屋好きの方は、ぜひいちど足をお運び下さい。

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純粋な本屋

ハセガワさんは
本屋のひとです
といっても
本屋のひとっぽくなくて
ただ
ただ
純粋なひとなのです
目が
きらきら
きょろきょろしていて
メールの返事が
季節の変わり目になって
ようやく
届いたりします

たまに会うと
少々
とまどってしまいます
お互いに
沈黙だらけの対話をしたり
ハセガワさんが
何言っているのか分からなくなって
僕は
あいまいに
相づちを打ったりしています
(本人は気づいていませんが……)
どうやら
言葉以外のことも
ハセガワさんは語っているのです
ああ
まだこんなひとがいるんだなあと
しずかにおもったりします

大阪
ミナセの駅前に
その本屋さんはあります
私が
純粋な本棚を眺めていると
ハセガワさんは
小学生に
囲まれていました











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by kayu_hiko | 2017-11-16 09:59 | 作品 | Comments(0)
2017年 08月 11日

半笑い 『光ったり眠ったりしているものたち』より


半笑い


僕は
日々
貧しい農夫のように
過ごしています
そして
いつも
しずかに
半笑いなので
よほどの人しか
近寄ってきません
近づいてくる人は
なぜか
僕に
小瓶の日本酒
牛タンの佃煮
児童文学書
シーサーの置物
文楽のチケット
ビルケンシュトックのトートバッグ
小さな詩集
古いウイスキー
くまモンのバッジ
などを
ほいと
分けてくれます
よほど何か困っているように
見えるのかもしれません
僕もお返しをしようと
ごそごそしますが
何も見つかりません
しかたがないので
ごめんなさいね と
真顔で言って
また
半笑いに戻ります










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by kayu_hiko | 2017-08-11 09:21 | 作品 | Comments(0)
2017年 02月 18日

雀餅 散文詩



雀餅



あの公園なあ。あっこには行かん方がええで。昼飯もゆっくり食べられへんし。パンなんか食っとってみいや、パンどころか、からだのやわらかい部分までつついてきよるがな。ええかげんにしとかなゆうてもきっきよらへんがな。

瓢箪山在住の友人カナトコ氏はそう言って悲しんだ。セーターは七ヶ所ほどほつれ、耳たぶには血が滲んでいた。しくしくとカナトコ氏は泣き、セーターを脱いで「これはリサイクルしよう」と呟いた。

わたくしは、カナトコ氏の悲報に笑いをこらえていた。というか、「もうこれで五度目でしょ、いい鴨にされてるだけですよ、というかその公園行くのやめえ」と教えてあげたかった。

しかし、当時も今もわれわれは友人なので本音は言わず、表面上の付き合いに徹していた。そして彼への慰問の印として雀餅を献上した。「うほーい」と歓喜するカナトコ氏単純。

むしゃり、むちゃり。十二個の雀餅を食べ尽くしたカナトコ氏はご満悦。何かやり返した気になったカナトコ氏はあの公園のことをすっかり忘却。わたくしの雀たちは至る所でカナトコ氏を気持ち良く征服している。理由もなにも無いのだけれど。







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by kayu_hiko | 2017-02-18 17:44 | 作品 | Comments(0)
2017年 02月 12日

土塊 (つちくれ)


土塊(つちくれ)

わたくしの頭のなかに蒔かれた種。その大部分はそのまま土に返ってしまった。掘り返しても土塊と見分けがつかない。種は、種を失ったのだろうか。

不意に、死んだらどうなるのだろう。という問いが土塊からなされる。て淋しいね、とわたくしは答える。その問い自体が淋しくって仕方がない。土塊は黙る。黙らないでほしい。

土塊はわれわれの死者をすべて受け入れてきた。死者の呼吸が土塊であり、死者の栄養が土塊であり、死者の存在が土塊である。最も死者を知るものは土塊なのだ。

そのくせ土塊はわたくしに問う。死んだらどうなるのだろう。問いの中に、いやあなたの中にすでに答えがあるではないか、土塊よ。

生きている者は、滑稽なだけ。わたくしは幾人かの死者の眼に晒され動かされている。何故なら死者を裏切ることは決してできないからだ。

完黙の土塊は死者を丁重に扱い続けてきた。わたくしは死者と一体化した土塊が怖い。わたくしはわたくしの死者に操られている。

やはり新しい種を蒔こうと思う。そう思い直したわたくしは静かに種を手にふくませた。種蒔くわたくしの姿は、祈りの儀式にも似ていた。



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by kayu_hiko | 2017-02-12 19:24 | 作品 | Comments(0)
2017年 02月 10日

あれ 散文詩


あれ


坂の町でシャーマン レレナさんと落ち合う。純喫茶ボンは、急斜面にしがみついたもののその後の対応はしきれずテーブルが若干傾き、わたくしのビックボールペンが今にもジャンプする気配だ。

三分で出てきた珈琲二つも速やかに零れテーブルが黒く潤って気持ちがいい。どういうシステムのお店なのか肝心の所が掴めないが、自分のシステムも二〇〇七年に破綻したままなので口を噤む。

頼んでいたミックスサンドは、星三つの風貌だった。ふわふわ卵サンドとさきさきと声が聞こえるハムレタスサンド。テーブルに載せられると物凄い勢いで落下した。

シャーマン レレナさんは、目の前の過剰な出来事に一切関心を持たず、しんと下を向いたままだ。何で落ち合ったのかさえレレナさんには興味がなかろう。珈琲二つを追加注文した。

レレナさんは再び零れるはずの珈琲が運ばれてくる前にぽそりと言った。「この店には、いるわ」「なにが」「あなたとあれが」「なに言ってるの、僕は関係あるまい」「あなたが主犯!」「はい、僕とあれがやりました」と勝手に口が動いたやめて下さい。

わたくしとあれは入店と同時に不自然な同期を始め異常な波動を空間に与えていた。わたくしの破綻したシステムの残滓が純喫茶ボンの些少な傾きによって息を吹き返したのだ。馬鹿げているがそれがわたくしのシステムの初期設定なのだごめんなさい。

店を出るとレレナさんは優しくなった。「もう大丈夫よ」。われわれは夕暮れの坂を下った。レレナさんはさっきから、ほほ笑んでいる。彼女はわたくしを含む世界のすべてを愛しているようだ。わたくしは。どうなのだろう。




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by kayu_hiko | 2017-02-10 15:18 | 作品 | Comments(0)
2017年 02月 09日

サンチョ (散文詩)



サンチョ

わたくしの住まいはほぼ鹿さんの居住地域と重なっている。入居当初は鹿さんたちの手荒な歓迎を受けたがすぐに忘却された。椿の花が一番の好物。これは鹿さんの秘密。

一匹だけ馴れ馴れしい鹿さんがいてサンチョと呼んでいる。サンチョはよく笑う。わたくしの言動、挙動、運動の全てが可笑しいと笑う。サンチョの角はカーブを描いて、とんがり。

ある朝、家の前にサンチョが佇んでいた。黒っぽいタクシーのようにも見えた。「おはよう」と言うと「お乗りなされ、奈良駅まで送りまする」と有り難い古い言葉。サンチョの口に椿を放りこんでやった。

ところが、というより、予想通りサンチョは森へ入ってゆく。「こらこら」と言うと「ほれほれ」と相槌を打つ。「こらこら」、「ほれほれ」、「こらこら」、「ほれほれ」。奥へ奥へと入ってゆく。

われわれの可笑しな運動。これぞ人鹿一体のちぐはぐさである。この運動に森の神様がうんざりしたからか、サンチョの馴れ馴れしさが度を超えたからか、時空の裂け目に入ってしまった。しかし、わたくしにはよくある事。一刹那、赤い蝶の大群を見た。

奈良駅前にサンチョの姿は無かった。広場の鑑真和尚はずぶ濡れになって笑っている。修行も大変だ。お、和尚の頭上に赤い花。あれはきっとサンチョの忘れ物。





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by kayu_hiko | 2017-02-09 10:21 | 作品 | Comments(0)
2017年 02月 07日

染井吉野 散文詩



散文詩


染井吉野


水路沿いの空地に染井吉野が一本咲いた。わたくしは、わたくしを脱ぎ捨てて呆然と花を見ていた。錆び付いた自転車を漕ぎ漕ぎ漸く小さな幸せに辿り着いた。そりゃ、眼鏡も光るはずだ。

脱ぎ捨てられたわたくしは、思うようにふくらみを保てず眠っているみたいだ。でも、胸のあたりが凹んでは凹み、もう後がないのかもしれない。脱皮した方のわたくしは、手を合わせた。

満開の染井吉野の花びらがわたくしの襤褸自転車と噂話をしている。内容までは聴き取れないが、わたくしの来し方行く末を案じているようだ。ああ、もうすぐ眼鏡から鳩が出そうだ。

ぼろりん、と出てきたのは雀だった。いつも間違いだらけだがそれにも慣れた感じ。わたくしの肩に乗っていただき、一緒に染井吉野を眺めていた。

帰り際、眼鏡が消失していることに気づいた。仕方なく、裸眼のわたくしと錆び付き自転車は歩くことにした。花びらで埋め尽くされた水路沿いの道。それも小さな幸せであった。







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by kayu_hiko | 2017-02-07 20:26 | 作品 | Comments(0)
2017年 02月 03日

亀抜き様

散文詩


亀抜き様

長い列であった。豆腐屋のヨシナシさんは呆れて水を打って帰ってしまった。亀を抜くことがこんな難儀な平日の午前。わたくしは葡萄を食べながらならんでいた。

青い葡萄を送ってくれたのは瓢箪山在住のカナトコ氏である。宅急便の封を開けるとまた箱があり繰り返すこと五度。で、漸く果実に辿り着いた。同封の書面には達筆で「あやまちすな」とあり。破いて捨てた。

待つこと約二十分。列からの離脱者が相次いだ。亀抜き様に近づいて自然と亀が抜けたのか、一様に暗い笑顔を残して去って行った。既に亀詰まりを起こしているわたくしは羨ましい。

小部屋に入るとおじさんかおばさんがいた。その人、亀抜き様は、いきなり左手を差し出しパアをした。わたくしは何のことか葡萄一顆をパアの薄い窪みに置いた。すると亀抜き様はしゅんと眠ってしまった。

今度は待つこと三十分。後ろの法学士が「まだですか訴えますよ」と早口の怖い顔。文学部美学科除籍のわたくしは「ゴメンナゴメンナ」を連発するばかり。はやく起きて光ってよ亀抜き様。

祈りが通じたのか、しばらくして亀抜き様は目を開けた。指示があり、わたくしは口を開けた。窓の外には午後の下弦の月。亀抜き様は、微弱波動を受け取ったふりをして徐にわたくしを診た。

口内一瞥、亀抜き様は、「オオ、ギッシリ亀ガツマツテオルワ」と言った。そして「シバラク様子ヲミヨウ」と呆れたお言葉。わたくしの亀らは大はしゃぎの末、また体内に潜り込んだ。





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by kayu_hiko | 2017-02-03 19:14 | 作品 | Comments(0)
2017年 01月 14日

ならまちの古本屋


ならまちの古本屋          


奈良町は
ところどころ崩壊気味の
迷宮である
もともとは
世界遺産にもなっている
元興寺の敷地だったらしい
縦 約五〇〇メートル
横 約三〇〇メートル
迷うにはちょうど良い狭さといえる
いりくんだ細い露地には
古い
 家屋
 料理屋
 和菓子屋
 博物館
 雑貨屋
 庚申堂
 銭湯
 漢方薬局
 見せ物小屋
 古道具屋
 喫茶店
 蕎麦屋
 造り酒屋 等々
これらが 
奈良の宗教文化というスープに浸され
それぞれが
ごった煮の味わいである
さて
そんな奈良町の中心より少し東
注意していないと素通りしてしまいそうな
目立たない古本屋がある
外観も内装も
元の民家をそのまま使っているので
靴を脱ぎ
畳の部屋で本を眺める
下宿している友人の部屋に来たみたいだ という人もいる
初めて行ったとき
ぼくは つげ義春の漫画の世界に入り込んだ気がした
うらぶれつつも不思議とあたたかい空間
店主は七〇年代前半に学生時代を送り
世界中を旅した人だ
ヒッピー文化を
今に受け継いだ希有な人と言ったらよいだろうか
一番奥の部屋に座り
なんとなく話し始める
音楽がいつも流れている
古い
 ロック
 フォーク
 民族音楽 等々
明るいうちから
お酒もふるまわれる
なんといっても
この店は「酒仙堂」というぐらいなので
 おいしい日本酒もらったんですよ 飲みますか
 そりゃ どうも
午後二時に飲み始め
ふと気づくと
日が暮れかけていることも
よくあったりする
 じゃ そろそろ帰ります
 そうですか と言葉を交わし
少し浮遊しつつ
ぼくは店を出る
最近 
 この店で本を買っていないなあ と思う
でも 
また行きたくなるのは
小さなこの店が
さえぎるもののない
本当の自由を
なんとなく
実現している気がするからだ






『朝のはじまり』より



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by kayu_hiko | 2017-01-14 13:24 | 作品 | Comments(0)