カテゴリ:詩集 『 フタを開ける 』( 6 )


2017年 01月 09日

「 独り占め 」




独り占め             



家に帰ると
九歳の息子が
とうちゃん四ツ葉のクローバーみつけたで
と言ってきた
あわてて見に行くと
水たまりに
四ツ葉のクローバーが
挿してあった
しかも 五つもだ
驚いて 
どこで見つけたんや
と訊くと
自慢げに
庭の
とあるクローバー群生地へ
案内してくれた
私も四ツ葉を必死に探したが 
一つも見つからない
残念だったので
幸せを独り占めしたらあかんで
と言うと
息子は
うん
と返事をした









『フタを開ける』より









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by kayu_hiko | 2017-01-09 08:14 | 詩集 『 フタを開ける 』 | Comments(0)
2016年 04月 27日

『 フタを開ける 』 より 「 ひぐらしのうた 」


ちょっと季節外れですが。

我が家では、7月中から鳴きはじめます。



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ひぐらしのうた      


ひぐらし
鳴いて
山響き
ひぐらし
鳴いて
空開く

ひぐらし
聞いて
姿見ず
ひぐらし
聞いて
道迷う

ひぐらし
飛んで
みどり色
ひぐらし
消えて
森眠る

ひぐらし
ひぐらし
夏の終わりに

ひぐらし
ひぐらし
今日の終わりに







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by kayu_hiko | 2016-04-27 12:28 | 詩集 『 フタを開ける 』 | Comments(0)
2016年 04月 22日

『 フタを開ける 』 より 「 木辻町再訪 」



木辻町再訪       



古い町並みが残る
ならまち
西のはずれ
木辻町
六年前の夏
暑さに負け
ふらふらと歩いていた
そんな
路地の奥に
老婆がいた
小柄でくすんだ地味な着物をまとい
不吉な眼で私を見つめる
かつてここは色町であり
その時代を
背負ったまま年老いた女だろうか
でも 
この考えは
しばらくしてから思いついたこと
当時
炎天下の細道で考えたことは
一刻も早く立ち去ることのみ
私はなぜか頭を下げて逃げ去った

先日 久しぶりに現場を訪ねた
以前は気づかなかったが
そこに古い祠が存在していた
もしかして妖婆は
祀られた神さまだったのかもしれない
灼けるような夏の日
あまりに暑くて
外の世界に姿を見せられたのだ
私が 
あの時
不吉な妖婆に
頭を下げたのは
間違いではなかったが
握手ぐらいしておけばよかったと
今頃になって後悔をした













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by kayu_hiko | 2016-04-22 08:12 | 詩集 『 フタを開ける 』 | Comments(0)
2016年 04月 20日

『 フタを開ける 』 より 「 つかの間のこと 」





つかの間のこと       



森の風雨に耐えかねて
一枚の看板が
すっかり茶色く錆び付いている
文字もほとんど腐食している
「歴史的風土」 
「県が買い入れた土地」
「何人もみだりに立入りを禁ず」
「昭和四十九年三月」などの言葉が
うっすらと読み取れる
森を守るために立てられた看板が
その森に侵蝕され
役割を果たせなくなっている

森は
三十五年の歳月をかけて
看板の存在意義を
すっかり無にしてしまったのだ
自然は
あらゆるものを
確実に
のみこんでゆく
いずれ
この家も
私自身も
のみこまれるだろう
それまでの
つかの間
私は森に暮らしている









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by kayu_hiko | 2016-04-20 09:12 | 詩集 『 フタを開ける 』 | Comments(0)
2016年 04月 19日

「 フタを開ける 」 より 「 生まれて初めて 」




生まれて初めて      




四月
堤防へ上ると
黄色のおだやかな氾濫
河川敷に降りると
菜の花が
咲いている
揺れている
生きている
近づくと
温かい薫りに
ほどかれる
ゆっくり
川沿いを
歩いていると
眠たくなった
こんなことは
生まれて初めて







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by kayu_hiko | 2016-04-19 08:15 | 詩集 『 フタを開ける 』 | Comments(0)
2016年 04月 18日

「 言の葉 」



言の葉          



大切な人が
言葉を拾っている姿を見かけたら
声をかけないでください
その人が
ペンを持ったまま
動かなくても 
だいじょうぶ
その人が
黙り込んで
うつむいていても
だいじょうぶ
その人は
静かに
言葉を
集めています
その人は
素朴で
まっすぐな
言の葉を
探しています
時には
どうしても
大事な一枚が
見つからないこともあります
でも だいじょうぶ
時間という
おだやかな風が
必ず その一枚を
落としてくれるから
必要な言の葉を拾い集めたら
その人は
静かに微笑みます
そうしたら
声をかけてあげてください
きっと
喜びに満ちあふれた
その人の
口元から
あたらしい言の葉が
つぎつぎと 
飛び出し
ひらひらと
空を舞うでしょう
その下で
毎日を過ごせたら
君たちは
だいじょうぶ








『フタを開ける』より








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by kayu_hiko | 2016-04-18 12:14 | 詩集 『 フタを開ける 』 | Comments(0)