尾形亀之助之詩之事  雨の楽隊



尾形亀之助之詩之事


もくじ


はじめます

1 わざと間違える

2 心よくなまける

3 雨の楽隊

4 私と私

5 蠅と私

6 昼ちよつと前

7 謎 黄色 

まとめられないです


+++


3 雨の楽隊


 初期の亀之助詩は、短い作品が多いです。そして、いわゆる普通の言葉を使用しています。ですから、逆に特異な言葉が目につきやすいといえます。また、その特異な言葉が、いくつかの作品にくり返し登場することもあり、それらをつなげて読むと、物語的な解釈が可能となってきます。

 今回は、「楽隊」を取り上げます。



雨降り

地平線をたどつて
一列の楽隊が ぐずぐず してゐた

そのために
三日もつづいて雨降りだ



 一読して、どうもおさまりの悪さを感じます。その理由が、ようやく最近分かりました。単純に文の順序が逆さなのです。

 「三日もつづいて雨降りだ そのために 地平線をたどつて 一列の楽隊が ぐずぐず してゐた」が、本来の因果的な文脈と推定できます。

 しかし、ここはわざと間違えているのではないでしょう。亀さんの幻影では、本当に(「本当の幻影」とは不思議な言葉ですが)「楽隊」が「ぐずぐず」しているから「三日」も「雨」が続いているのです。

 で、この「楽隊」とは何か?

 それを解くヒントが、『色ガラスの街』から五年後に発行された詩集『障子のある家』の作品に記されています。


ひよつとこ面

 納豆と豆腐の味噌汁の朝飯を食べ、いくど張りかへてもやぶけてゐる障子に囲まれた部屋の中に一日机に寄りかゝつたまゝ、自分が間もなく三十一にもなることが何のことなのかわからなくなつてしまひながら「俺の楽隊は何処へ行つた」とは、俺は何を思い出したのだらう。此頃は何一つとまとまつたことも考へず、空腹でもないのに飯を食べ、今朝などは親父をなぐつた夢を見て床を出た。雨が降つてゐた。(後略)


 先ほどヒントと書きましたが、「楽隊」は、もう見あたらないようです……。この作品では、以前のような幻影がすっかり消えてしまい、亀さんを取り巻くとほほな現実ばかりが、描写されています。「一日机に寄りかゝつたまゝ」なまけている亀さんは五年が経っても相変わらず(!)ですが、「納豆」、「豆腐の味噌汁」、「やぶけてゐる障子」といった生活感丸出しの描写が目を引きます。(それはそれで面白いです)

 「ひよつとこ面」の次の作品、「詩人の骨」の中で「お前はもう三十一にもなるのだ」と何もしない息子(亀之助)へ向けて親父が非難の手紙を書いてきたことを記しています。親父に叱られた亀さんは、反発からか「三十一にもなることが何のことなのかわからなくなつて」しまったと思ったと同時に、そういえば「俺の楽隊は何処へ」と急にフラッシュバックのように思い出すのです。

 ところが、その「俺の楽隊は何処へ」という言葉自体に、亀さんは「俺はなにを思い出したのだらう」と無理解を示しています。あの「一列の」、「ぐずぐず」のあなたの「楽隊」ですよ、と申し上げたいところですが、ずっと以前に「地平線」の向こうに消えてしまったのでしょうか。「楽隊」という大正ロマン的幻影、たぶん亀さんの私設応援団(?)は、昭和になって消えてしまったのでしょうか。

 もしくは、五年間という、かくも長きにわたって「楽隊」が「ぐずぐず」していたので、引用の最後にあるようにまだ「雨が降つてゐた」のかもしれません。亀さんは、待ち続けているうちに、何を待ち続けていたのかすっかり忘れてしまったのかもしれません。

 どちらにしろ、ちょっと寂しい亀さんです。



















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by kayu_hiko | 2014-09-29 20:25 | 尾形亀之助 の こと | Comments(0)