作品「 現代の昔話 」と創作余談


現代の昔話   



のっぺりとした
ならまちの西に
坂道が現れる
その途中
陰陽町
いんぎょうまち
と読むらしい
いわくありげなその町に
目立たない神社がある
開け放たれた扉から
鄙びたお社が見える
赤い鳥居や大木も無く
まずしく
やさしい空気を感じる
お腹を空かせたように
二匹の狛犬は痩せている
でも
なぜか笑っている
右側で
「阿」と口を開けて大笑い
左側で
「吽」とニンマリ笑っている
初対面の私にも
非常に友好的な狛犬たちだ
こっちも釣られて微笑んでしまう
その時は
お賽銭も入れずに願い事をした
しばらくしてそれは叶った
今回は
十円玉二枚で願い事をした
それもすぐに叶った
ほんとうの話である
現代の昔話である







【創作の余談】


奈良に「ならまち」と呼ばれる地域があります。

といっても、正式の地名ではなく
「だいたい元興寺の、あのあたり」というテキトーな感じです。

同じような言葉に「奈良公園」があります。
これも、決まった区域はないのです。
「だいたい鹿のいる、あのあたり」です。

線引きをしっかりしないところが
奈良のゆるさを象徴しているようにおもいます。

昔、東大寺と春日大社がお互いの境界線をめぐって喧嘩したらしいのですが
それが現在の恒例行事、若草山の山焼きにつながっているそうです。
山焼いても何も解決しないとおもうのですが
線引きをしっかりしようとすると
ろくなことがないと奈良の人たちは知っているのでしょう。

そうそう「ならまち」でした。

「ならまち」は、迷路です。

もう、十五年ほど以上前になりますが
一時期ならまちに住んでいました。
路地のどん突きの平屋でした。
時間があれば、幼子と一緒に歩いたり
自転車に乗ったりしながらならまちをうろうろしていました。

当時は、今の五分の一ぐらいの観光客しかいなかったと思います。
まだまだ古い建物や妖しげな人もいて別世界の雰囲気を残していました。
近所に開店したばかりのカフェ「カナカナ」があって
店主はブラジル音楽のレコードをのんびりとかけていました。
現在は、大人気店になって行列ができています。

そういえば
「カナカナ」の隣に「ならまち文庫」という古本屋があって
よく行っていました。
良い本が安くて
店主が「人生の楽園」にテレビ出演したり面白かったです。
店主は後に
河瀬直美監督の「殯の森」に主演されました。
それにしても
閑散としていて
文化的で
やる気のあまりない「ならまち」らしいお店でした。

作品で紹介した小さなお社は
ぜひ見つけて下さい。
そして
にっこりにんまり笑っている狛犬さんたちに出会って下さい。
変わらない、ならまちの笑顔です。








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by kayu_hiko | 2018-01-31 10:23 | 歩きながらはじまること | Comments(0)